朧月夜の独り言

趣味に関する備忘録と少しの日常

ひりひりとひとり

「ひりひりとひとり」観てきました。

立て続けの観劇で連日色んな感情が揺さぶられてますが、これもまた感情がたくさん刺激される、素晴らしい舞台でした。




年末の北斗の拳で石丸さんの演出に惹かれたことと、梅津さんが出演ということで観劇を決定しましたが、観に行って良かった。

物語は役者を目指す「春男」の物語。
春男は舞台の稽古の最中、実家で父が孤独死した報せを受ける。
過去にDVをしていた父親に対し、“死んでしまえ”と憎しみを抱き続け(春男曰く“呪い”)。
しかし、憎かったはずの父親の死を悲しいと思ってしまったこと、自分の呪いが本当になってしまった恐ろしさ、様々な感情に襲われた春男は言葉が上手く紡げなくなってしまい役を降りて引きこもる日々。
そんなとき、春男の前に別人格である「西郷さん」と「ぴーちゃん」や、りぼんと名乗る“結ぶ者”が現れる。
そして、鉱石ラジオの音楽家と繋がり、言葉の替わりに歌を紡ぎ出すことで感情を表現し、役者仲間に支えられながら前に進み始める。

鈴木勝吾さんの春男の生き様が苦しくて、悲しくて、真っすぐで、愛しい。
感受性が豊かで芸術肌で、それゆえに父親の死を受けて悩んで、自分を励ましてくれる役者仲間に対して感謝して、そして父親と自分の過去に向き合うことでまた心を痛めたり、出来事一つ一つに目まぐるしく心を動かされる人。
役者仲間である賢と夏子へ感謝の気持ちを鉱石ラジオの音楽家として歌で届けるシーンが好き。
二人が春男の歌を聴いて、普通にこっ恥ずかしがるのがリアルで良い。
そりゃ、友達が急に気持ちを歌にしてきたらびっくりする。
でも、引きこもって別人格としか会話できなくなった春男が、勇気を出してりぼんと音楽家に協力を仰いで作り上げた歌を想いをたっぷり込めて披露するところに感動する。
照明が明るくなって、ステージ中央で歌い上げる春男を思い出すだけで涙が出てくる。
「2番もある!」はもう、笑っていいのか泣いていいのかわからなくて楽しかった笑
石丸さんの、傷ついて悲しみを抱えて生きている人間を哀愁ではなく乗り越える力強さで表現する演出が本当に好き。
賢と夜の海でそれぞれの愛を叫ぶのも恥ずかしくなるくらいの青春で良い。
賢の演出家に対する愛はLOVEだよね?
なんとなく梅津さんが兼役で演じてるのをみて男性かと思ったけど(いや、対男性にLOVEも変では無いけど)ちょっと違和感というか、そうだったの?感が。

別人格の西郷さんとぴーちゃんも可愛くて好き。
西郷さんは俗世的なことを嫌い、役者仲間にもあまり良い感情を持っていない孤高の詩人な部分で、ぴーちゃんは子供のような自由で本能的な部分のイメージ。
ぴーちゃんを演じている梅津さん最高、絶品、ありがとうございます。
梅津さんの役を演じるときの、憑依するような化けるような感じが大好きなのですが、普段の本人の雰囲気とかけ離れてるほどそれが際立つ。
ぴーちゃんの自由で、常に春男に語り掛けて、走り回って、ケラケラ笑ったり怒ったり、春男の家庭環境が良くなかったことで表に出せなかった幼さが溜め込まれた人格のように思う。
お二人は劇中の色々な役も兼ねているので、本当に色々なお芝居を堪能できて嬉しい。
梅津さんのおじい芝居が好きなので、ビジネスホテルの受付のおじいちゃん演じているのツボでした。

クライマックスで春男は、役者は人生を過ごす中で取捨選択し、捨ててきたものを拾うことができる職業だと気づく。
役の人生を通して、自分だけではなくお客さんが捨ててきた人生の可能性も拾って昇華させることができるのが舞台だと。
メタだけど、「舞台とは」というものを直球で言葉にしてくれる。

リアルなようなファンタジーなような不思議な世界観。
傷つく春男が痛々しくて見ていられない瞬間もありつつ、でも人との繋がりで希望を見出していく姿が美しくて、素敵な作品でした。