朧月夜の独り言

趣味に関する備忘録と少しの日常

雨降る正午、風吹けば

SUPER NOVA stage001「雨降る正午、風吹けば」行ってきました。

前回公演から気になっていたのですが、前回は公演期間が短く予定が合わず。
今回やっと観に行くことができた作品。




王子小劇場は初めて。
自由席の舞台も久しぶりだったな。
S席は最前保障だったので最前の好きな席を選べて、2メートル先には舞台。
目の前で肉声で芝居が観られるの楽しい。

物語は昭和初期。
震災、流行り病、世界大戦…大きな辛い出来事があった時代。
主人公は小説家・坂本治郎。
父の顔を知らず、母は幼い頃に川で溺れた治郎を助けて亡くなってしまう。
ヒロインの“風子”は、震災で親を亡くし、道で飢えていたところを治郎に拾われる。
母を殺した罪の意識から生きたい・幸せになりたいという気持ちを捨てていた治郎と、一人ぼっちで心を閉ざしていた風子の共同生活が始まり、二人の未来が少しずつ拓けていく、そんな時、治郎は結核にかかり余命宣告を受ける。
残り少ない時間をどう過ごすか、死して何を残すのか、母の亡霊や風子と向き合いながら最期の時を過ごす治郎。

一人では心が折れそうになるような厳しい時代の中で、繋がり支え合いながら生きた人たちのお話。

坂本先生は、筆の進みは気分次第で、掃除が苦手で、新しいもの好きで、よくイメージする「小説家」というキャラクターそのままという印象。
本人は幸せを手放しているように振舞っているけれど、彼に幸せになってほしいと支えたくなるのは、生に対して執着しない儚さや危うさからか、生活力の低さに母性本能をくすぐられるのか。
先生の周りに人が集まるのは、何だか世話を焼きたくなる彼の人柄なのだと感じる。
設定を見て似合いそうと思って楽しみにしていた三好さんは、想像どおりとてもしっくりくる。
着流し姿で素足でぺたぺた歩く姿が可愛い。

風子はあまり作中で設定が語られない。
震災で親と別れる夢にうなされるシーンから震災孤児だとわかるけれど、他の過去は明かされず。
口数が少なかったり名前を教えないのは、孤児としての辛い経験から心を(特に男の人に)閉ざしているからかと思っていたら、終盤で「記憶が無かった」というセリフがあり完全に記憶喪失だったんだなと。
年齢も作中では出てきてなかったような…演じているのは普通に大人の役者さんなので、年齢感がわからないのだけはちょっと残念。
どのくらいの子供を相手にしているかによっても雰囲気が変わってくるので…3年後に独り立ちも視野に入れるくらいだから、個人的には出会いは12歳くらいのイメージ。

母への償いとして死ぬために生きていた治郎が、風子を育てることになって、彼女のために生きたいと願う。
最後に母の亡霊(治郎の深層心理?)が穏やかになったのは、母の想いは恨みではなく、我が子が幸せに生きてほしいということなのかな。
治郎が風子にその想いを抱くことで、母の気持ちを理解し、母が穏やかになったように見えた…と思っている。
死して残したものは、子供の幸せな未来なのかなと。

物語の展開は結構スピーディーでテンポが良い。
爽やかに季節が巡るのが気持ち良い。
キャラクターたちの心情や置かれている環境がどんどん変化していくので、設定は重めだけど息苦しい感じがしない。

キャストさんの組み合わせは「秋組」
坂本@三好さん以外は複数キャストなので、永井@田淵さん出演の秋組を選択。
坂本の担当編集の永井はべらんめえ口調のような感じで、真っすぐで熱い男。
刀ステぶりに拝見したこともあり少し兼さんを思わせるようなかっこいい役どころ。
脚本を読んで出演を決めたと事前コメントで仰っていたので、維伝からの繋がりで三好さんの推薦なのかなと想像したり。
担当編集として友人として坂本を想い、酒癖は悪いけれど酒の上での約束も何だかんだ守る律儀さが垣間見えたり、風子との絡みは少ないけれどきっと陰ながら風子の成長を支えてくれたんだろうなと想像できる…小劇場のストレートプレイでこんなに良いお芝居をされるんだと感動。
今の田淵さんにまた兼さん演じてほしいなと思った。




坂本、永井、柳の男子組の関係性が楽しかったというお話。
最後の永井も結核にかかる設定が意外で面白かった。
永井のセリフにもあったけど「自分は大丈夫だと思っていた」けれど、かかってしまった。
坂本が特別なのではなく結核は当時だれでもかかる可能性があったんだなということがわかる。
で、永井が坂本にそれを面白い話だとケロリと明かして「おそろい」だと言うの可愛すぎませんか。
病で苦しんでいるのはお前だけじゃないと、坂本に寄り添って共感するように…自分に対しても少しでも結核にかかったという辛い気持ちを紛らわせたかったのかな。
それに対して坂本も驚きはするものの、特別心配するでもなく今後どうするのかと静かに話して別れるのも、男同士のさっぱりした関係性らしくて切なくて良い。
その後、柳に会ってからは元気に振舞っているから、永井の喀血は坂本のために結核にかかった演技をしていたのかとも思ったけれど、柳と酒を飲みながら咳き込むような仕草をしていたからやっぱり結核は本当なんだろう。
派手に咳き込まず、隠れるように口元を抑えているから、柳には結核のことを明かしていない気も。
自分は旅に出るから、お前はお前で頑張れと激励の言葉を贈って。
双方に対する永井の対応が男前すぎて美しい。
坂本と永井は結核で亡くなり、世界大戦が始まって柳も徴兵されて(演出的におそらく)亡くなったんだろうと思われ、男性陣の方が儚いくて辛い。



衣装に関してはこの規模なのでどこまで突っ込んでいいかわからないけど。
風子が最後に先生に会いに行くときの着物が(早替え大変なんだろうけど)脛まで見えるくらい裾が曲がっちゃってたのは残念。
パンフを見て、他の組の風子は訪問着(付け下げ)なのに秋組風子だけ小紋なのは、秋組風子はちょっと幼いイメージなのかな。