朧月夜の独り言

趣味に関する備忘録と少しの日常

舞台遙か3Ultimate 十六夜記

舞台「遙かなる時空の中で3 Ultimate 『十六夜記』」
大千秋楽おめでとうございました!!

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ネタバレ感想



再縁(本編)の続きとなる十六夜記。
平家を討った後、頼朝公から追われる身となった九郎は奥州・藤原泰衡の元へ向かう。
頼朝の家臣である景時は九郎を討つ側となり、北条政子に憑りついた人ならざる者・茶吉尼天とともに奥州へ向かう。
望美は仲間と奥州の地を守るため、再び戦うことを決意する。


思ったことを並べていたら取り留めのない感想になってしまった。

本編と同時期に続編が観れるのは嬉しい。
本編は本編で、異世界トリップから仲間を集めて敵を討つという王道なストーリーも熱いけれど、続編のキャラクター同士の関係性が出来上がった上でさらに深い物語が展開されるのも良い。

本編が源氏対平家であるのに対し、十六夜記は源氏軍の内部分裂の部分が苦しい。
兄である頼朝と仲間であった景時に命を狙われることとなった九郎。
兄の裏切りに心を痛め悩む朔。
仲間であった九郎を討てという政子の命に従うしかない景時。
望んで対立しているのではないことは明白で。
特に景時は、対立してもなお家臣としてのあるべき姿と、個人の感情で苦しんでいるのがありありと見える。
梶原家を背負う身として頼朝公を裏切ることもできず、守りたかった妹は討つべき相手側にいて、しかも北条政子は茶吉尼天という異形の者だということを知り。
景時としては、妹や家族を守るために最善の選択肢を選び取ったはずなのに、想像していた未来とは違っているような…戦奉行として兄として、歯がゆい思いをしている気がする。

十六夜記の見どころは誠治郎さんの、記憶を失った薄幸の美青年・銀と、平家軍の戦闘狂・知盛の二役。
どちらも良いけど、私は知盛を演じてる方が好み。
本編ではラスボスとしてギラギラと戦いを求める戦闘狂な部分が多く描かれていたけれど、十六夜記では「お前は有川に戻れ」と、本来は平家の人間ではない将臣を戦い(平家という敗者)から抜けさせる理性的な面や。
神泉苑で望美と出会い、白龍の神子だと知っても戦うことなく、気まぐれに舞を舞う雅やかな一面があったり。
望美が知盛の死を悼むのに納得できるほど、魅力的に描かれるのがずるい。

あとはなんといってもラスボス・茶吉尼天の幸田さんが素晴らしい!
初演の時も思ったけれど、人ならざる者とはいえ、女性一人のラスボスであるにもかかわらず、全員でかかっても勝ち目がないのではと思わせるほどの迫力。
手振りで表現される術と、セリフの端々に溢れる余裕と残酷さに絶望感を感じる。
敵が強大であるほど、それに立ち向かう望美の精神力の強さも際立ち、相乗効果で一層物語に引き込まれる。

本編では望美が「皆を守る」という一心で運命を変えていった感じだけれど。
十六夜記では、「自分も皆に守られている」と自覚し、皆から受けた気持ちをさらに力に変えていく流れが美しい。
神子としての頑張りを見ているからこそ、守られる(皆が守りたいと思える)というのにも納得できる。

十六夜記初演が2年前なのでストーリーの所々忘れているところがあり、観ながら「あぁこういう話だった」と思い出していたのですが。
ラストの泰衡の物語を忘れていて、心構えができずに大ダメージ。
父を手に掛け、自ら前線で命を懸けて戦い、奥州に尽くした泰衡が、事情を知らぬ民に人知れず殺されるラスト。
泰衡自身はこの運命も見越していたようだけれど、望美や九郎たちがこれを知ったらと思うとやりきれない。
ただ、舞台上段に集まる望美と八葉たちと、舞台下段で一人死にゆく泰衡のコントラストが画として美しかった。

再縁でも思ったけど遙かカンパニーやっぱり殺陣が上手い。
皆さんの身体能力と努力と、新田さん・誠治郎さんの教えの賜物か。
テンポ感とか全然気にならない。
重心の低い構えや、攻め時を狙ってじりじりと体制を整える仕草がたまらない。
十六夜記では特に、1週目決戦の将臣・敦盛・弁慶が舞台真ん中の階段に集まって構えるシーンが特に印象的。
ゲームのキャラだからスッと綺麗に構えていても様になりそうだけれど、戦場のリアル感というか、戦いに対する気構えというか、しっかりと構えていることで感じる力強さが好き。
あと、将臣@遊馬さんが段から飛び降りるときに高く跳んで大刀を振り下ろすのが、前方ブロックの席から見上げると迫力ありすぎて最高だった。(バレーボール経験者の跳躍…!)

2週目の決戦のとき、望美と九朗が大社に行くのに対して、将臣と譲が毛越寺の守りを買って出るところが好き。
元々、現代にいるときから望美のことが好きで彼女を守りたいと思っているはずなのに、戦況と戦力を鑑みて毛越寺を抑えるという冷静な判断ができること。
もちろん毛越寺を突破されないことが望美を守ることに繋がるのだけれど、自分自身が望美を側で守るのではなく、望美と八葉たちの強さを信じた上での判断ということがこのシーンに詰まっていて、八葉の仲間意識が高まっていることが感じられる。

何となく、十六夜記は「主に忠義を尽くす」という点において、銀と景時は対になってるのかなと思ったり。
特に物語後半、望美に「自由に生きて良い」と説かれ、泰衡の命を破り一緒に伽羅御所を出る銀と。
主命を貫き、朔に「ご無事で」と別れを告げられる景時の対比が切ない。

望美と北条政子の衣装が、表がピンクで中が薄緑の似たカラーリングになっているのは何か意味があるのかなとちょっと気になった。


本当に、円盤にならないのが惜しい…。
配信の映像を脳裏に焼き付けています。。
再縁・十六夜記、運命に立ち向かう強く美しい物語をありがとうございました。