朧月夜の独り言

趣味に関する備忘録と少しの日常

ダーウィン・ヤング

ダーウィン・ヤング 悪の起源」
6/10夜公演行ってきました。
ダーク系の韓国ミュージカル、末満さん演出、渡邉蒼さん主演など、色々気になる要素が重なって楽しみにしていた公演でした。

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ネタバレ感想




主人公 ダーウィン・ヤングを中心に、親子・友人関係が色々なところで絡み合う物語…群像劇と言っていいのか。
秘密を抱える者・暴こうとするもの、無意識のうちに互いを追い詰めたり、それがさらに友人や子供に影響を与えて、また運命の歯車が狂っていったり。
クライマックスは王道というか、中盤で展開は予想できたけれど、先が想像できるからこそ濃くなっていく予感を楽しめる。

序盤はプライマリースクールでダーウィンがレオと出会い、友人となるところから。
気弱なダーウィンと明るいレオの、性格は対照的でありながら、この国の在り方について同じ疑問・思想を持って友人となる展開が美しい。
父・ニースと祖父・ラナーはやや険悪だけれど、父にも祖父にも愛されているダーウィンが可愛くて、親子のシーンは微笑ましくなる。
ただ、ダークな作品であることは周知されているので、幸せなシーンがあるほどその後に来るであろう落差に身構えてしまう。

物語の主軸はニールとレオの父・バズのかつての友人、「ジェイ・ハンター」の死に移っていく。
敬愛する“ジェイ叔父さん”を殺害した真犯人を探し続けるルミ、犯人探しを止めさせようとするルミの父・ジョーイ。
「おじさん」という言葉に、血縁関係があるのか、友達の父親を指しているのか最初は若干混乱しましたが、ジェイと血の繋がりがあるのは弟・ジョーイと姪・ルミですね。
ジェイの死を悼みつつ犯人を見つけようとはしない親たちと、正義感と探求心で真実を求めるルミ。
観ているときは過去は過去として心に折り合いを付けている大人と、好奇心・探求心そして行動力を持つ子供の対比なのかと思いましたが、ラストの展開やパンフレットに書かれていた本編中では明言されていない設定などを知ると、何とも恐ろしい場面。

一幕ラストではニールの独白で、ジェイを殺害した犯人がニールだということが明かされる。
同時にダーウィンも知っていたから、ニールの記憶の中だけではなくダーウィンに聞かせているのか?ちょっとそこが気になりましたが。
下層階級出身で革命家でありながら、第一地区で身分を偽っている父親(ラナー)の秘密を守るため、真実を知ってしまったジェイを殺す。
ラナーもまた、革命の最中に自分たちを利用し裏切った部隊長を殺し、命からがら第一地区に逃げ込んだ過去を持つ。
ヤング家の負の連鎖…殺人は悪だけれど、それに至ってしまった一因は国の制度。
何が悪かったのか、どこから狂ってしまったのか。

そして今度はダーウィンが。
レオが持っていたカセットプレーヤーに、ニールがジェイを殺害したときの音声が残っており、ダーウィン父の秘密を守るために親友を殺す。
クライマックスのダーウィンとレオのやり取りは、ずっと嫌な予感がして辛い。
ギリギリまで、ダーウィンは父と同じ過ちは繰り返さず正しい道を歩めるのではと希望を持っていましたが、それも虚しくダーウィンもニールと同じ道をたどることとなる。
ミュージカルの闇落ち展開はドラマチックで割と好きなので、普段は落ちていく様は悲しくも耽美的に感じるのですが。
今作はダーウィンが役としても役者さんとしても若いからか、過ちを犯して落ちていくのが苦しく、レオを殺すギリギリまで「落ちるな」と願ってしまった。

その後のニールとダーウィンの姿が重なる場面、下手側のニールと、上手側のダーウィンが同じ行動を取る構図が美しく、親友を手に掛けてしまったということに一人泣く姿が孤独で痛々しくてこっちも泣いてしまった。
レオの墓場のシーンでダーウィンはまた泣いていたけれど、レオの死を本当に悲しんでいるんだろうな。
レオが憎くて殺したわけではない、だからこそ余計に辛いだろうと思う。


殺される直前、レオがビデオをカバンのポケットに入れるという動作が気になった。
ニールがラナーの写真を、ダーウィンがニールのカセットテープを隠蔽したように、ダーウィンの殺人の証拠も残り、また同じことが繰り返されるのではと思うとゾッとする。
そんな想像の余地というか、結局ヤング家の秘密は明るみに出ないまま物語は完結するので、ヤング家のその後を考えながら物語の余韻に浸れる作品。


末満さんの演出は他の作品でも見ているので安心安定。
登場人物も多く、場面転換もありますが、回想や年代の描き方もわかりやすく。
何といっても暗転が少なくて物語に集中できるのが嬉しい。

ミュージカルとしては、曲は(パンフでキャストさんたちも仰っていましたが)難しそうな曲調が多かったけれど、あまり耳に残るって感じはなかったですが。
キャストさん達は言わずもがな、歌がうまい方々ばかりなので、色々な曲が聴けて楽しかった。
特にお目当て、北斗の拳ぶりの渡邉蒼さんの歌声はやっぱり素敵。

物語の展開はダーク…というか絶望ですが、作品としては面白かった。
初見だったので、ヤング家の視点で感情移入しましたが、それぞれのキャラの視点によって見え方が違ってくる作品だと思うのでリピートしたくなる。


以下パンフ内容バレ。







座談会のところで「ジョーイはニールが犯人だということを知っている設定」というのが明かされて驚き。
(小説では描かれている公式設定らしいけれど、ミュージカル本編には出てこない)
それを知ると、ジョーイがルミを止めようとしていた気持ちがとても理解できる。
ニールが犯人だと知ったらルミ自身も傷つくだろうし、それが世に出ればヤング家が崩壊してしまう。
そして何より、「ニールは秘密を守るためなら殺人をも犯す」というのがジョーイの認識だと思うと、真実に辿り着いたルミも口封じで殺されてしまうのではないかと考えてるんじゃないかなと。
娘の命を守るためと思うとあの厳しい行動も合点がいく。